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シリーズ記述子が運用されてない理由

以前、テレビ朝日のドラマ「相棒」の録画予約が正常に働かなかったという話題があった。一般の録画機器は、指定のキーワードがEPGに出てくる自然文とマッチするかで録画するかしないかを判断する。原因はおそらく、「相棒」の番組名情報に「55時間テレビ」などが入ってしまったために別の番組だと判断されてしまったということだろう。

これの問題は大きく2点あると思う:

後者についてはテレビ局の広報戦略上やむをえないところがあると思うが、前者についてはやはり納得できない。シリーズ記述子は正しく運用されていればこれほど便利なものはない。 ARIB-STD-B10第2部6.2.33で定義されている内容は以下のとおりだ:

要素名 説明
series_id シリーズをユニークに識別するための識別子
repeat_label 再放送フラグ
program_pattern 週に何回放送されるか
expire_date_valid_flag expire_date が有効かどうか
expire_date 最終回の予定日
episode_number 話数
last_episode_number 総話数
series_name_char シリーズ名

これが正しく運用されていれば、タイトル(短形式イベント記述子のevent_name_char)が広報戦略以上のキャッチフレーズを含んだ形になっていても series_name_char を正しく「相棒」とすることで録画機の助けになる。さらには、 series_id が然るべき値になっていれば間違いない。曖昧なテキストを任意にパースするより確実に正しい振る舞いを期待できる。

ではなぜ、この便利なシリーズ記述子は現在運用されていないのだろうか。おそらくテレビ局はコンテンツの販売戦略上テレビ番組が便利に録画されるのを嫌がっており、わざわざ塩を送るような情報を送出することはしないのだと思っていた。先日識者に聞いたところ、ちょっと別の業界的な事情があることがわかった。

つまり、まずシリーズIDを管理する組織を民放で作る必要があって、でもそれにはNHKは入ってこない(radikoとらじるらじるが並立してるのと同じように)からそんなに簡単に話を進められるようなものではないということだった。

たしかに同じアニメがMXとBS11で放送されていて別のIDでそれぞれ振られていたら問題かもなあと思ったけど、それってアニメに限ったイレギュラーなケースなのではないか?録画するときに普通チャンネルも指定するだろうし、そのチャンネルの中でシリーズIDが正しく管理されていれば問題ないのでは?

ARIB TR-B14 の 5.3 「識別子の運用」では、シリーズIDの一意性についてこう書かれている:

番組のシリーズに対して割り当て。拡張ブロードキャスタ記述子中の同一 terrestrial_broadcaster_id の同一メディアタイプに属するサービス群内でユニーク。

「拡張ブロードキャスタ記述子の同一 terrestrial_broadcaster_idの同一メディアタイプに属するサービス群内」というのは、NHKだったらNHK総合とEテレの中でユニークであればいいし、TOKYO MX だったらMX1とMX2の中でユニークであればいいということで、別にNHKとMXが協調する必要はないはずだ。つまりラブライブ!のシリーズIDがMXの本放送時とEテレの再放送時で同じである必要はない。

BSの場合はどうかというとARIB TR-B15 の 5.3 にはこうある:

番組のシリーズに対して割り当て。ブロードキャスタ内の同一メディアタイプに属するサービス群内でユニーク。

なのだから、MXとBS11のサービスIDは全く無関係なのが仕様だ。

さらに、 ARIB-TR-B14 の 18.1 を見てみると

EIT にシリーズ記述子が配置されてもシリーズ名が記載されない場合がある。その場合は短形式イベント記述子に記載される番組名がシリーズ名と等しいと受信機は理解する。番組名と異なるシリーズ名を与えたい場合は、シリーズ記述子内にシリーズ名を記載しなければならない。

とあるので、短形式イベント記述子の番組名(EPGで番組タイトルとして表示されるデータ)に番組名そのものでないデータを混ぜる場合はシリーズ記述子を送出しなければならないように読める。にも関わらず、現在の運用は番組名でない文字列が短形式イベント記述子の番組名に含まれることがあり、さらにシリーズ記述子は送出されていない。 TR-B14 どおりの運用となっていないし、識者が言っていた内容には TR-B14/B15 よりも厳しい自己規制が含まれている。