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玉ひでへ親子丼を食べに行った

「玉ひで」という人形町にある親子丼を出す店が美味いとのことで8人で行くことになった。なんでも、250年前に初めて親子丼を出したという由緒ある店で、開店前から行列がものすごく延びるとのことだ。そこで開店時間30分前に人形町駅集合ということに決まった。

集合時間に集まったのは私を含めて3人で、どちみち行列店で8人並んで食べることはできないだろうという判断でその3人で並ぶことにした。階段を上ればすぐ店が見える。驚いたことに、開店30分前からもう30人は並んでいる。店の壁づたいにまず15人、敷地の境で折り返して今度は道路沿いに15人。すぐ後ろには何か目印みたいなのがあって、その後ろは交差点になっていた。私達より後に来た人は交差点を右に曲がった角からまた並ぶように案内された。

5分くらいしてもう1人の参加者が来たが、列を見て「俺もう帰りますわ」と言って踵を返してしまった。それと行き違うようにもう1人来て、マナー的な意味で後ろに並ぶよう言おうとしたらちょうど店員が来て合流してもいいですよと言うので悪いとは思いつつ合流させてもらうことにした。

ところで玉ひでは、人形町駅は人形町駅でも日比谷線ホームとしか繋がっていない出口が最寄りで、参加者の居住地的に浅草線から来る人はいないと思っていたがこの会の首謀者は私の予想に反して浅草線で人形町にやってきて、道に迷って水天宮前駅くんだりまでさまよったと言って10分ほど遅れて到着した。驚いたことにさっき帰ると言って本当に帰ってしまった彼も一緒にいて、改札でばったり会って説得されて再び引き返したそうである。さすがに今度は合流も申し訳ないので後ろに並んでもらうことにした。参加者の最後の一人がまだ遅れていて、それを待って並んだようだった。

開店10分前になって先頭集団が先に案内され、それと同時にどこからともなく2組ほど人がやってきて列に並ばず直接店内へ入っていった。3000円以上するメニューは予約を受け付けていて、そういう人達は行列に並ぶ必要がないのだった。一度門が開くと思いのほか速いペースで列が縮んでいき、15分くらいで入店できた。中に入って分かったのは、この店は想像以上に広く、しかも階段が2ヶ所以上あるようで複雑な構造のように思われた。中で靴を脱ぐよう言われ、すぐ右手で先に注文を訊かれる。私は並んでいる間、初めての店ではもっともベーシックなものを注文すべきであって1500円の元祖親子丼こそが最適解であると主張していたが、いざ注文する段になって、ささみが乗っているという匠親子丼に心を奪われて300円余計に払ってそれを注文した。未来はこれほどに不確実なものなのだ。

元祖親子丼を2つと匠親子丼を2つ注文し、しばらく待ってから案内されたのは2階の広い部屋で、下であれほどの人が待ち続けているとは思えないほど落ち着いていた。8人がゆうに座れる机に4人通され、ふすまの向こうには同じ大きさの机が空いていた。どうせ相席になるのだろうからということで4人先に並んだのにこれでは拍子抜けである。

しばらくしてから金色の丼が2つ運ばれてきたが、それが何なのかの説明はなかった。あとの2つはすぐ来るのかと思いきやなかなか来ず、しかも金色の丼の中身が分からないから先に食べるということもできない。待ちくたびれたころに今度は銀色の丼が運ばれてきて、訊くとこちらが匠親子丼であるという。安いメニューのほうが良い色の丼に入っていた。

親子丼というのは鶏肉と玉子がごはんの上に乗っているものであって、それは1800円する高級店のものでも400円のチェーン店のものでも基本的に変わらない。価格に比例した品質や満足を得られたのかどうか、普段からいいものを食べているわけではないから分からないけど、うち1000円分くらいは歴史を食べたのだろうと思われた。